ここから遠く離れたわが国セルジェルに、美しい庭園と澄んだ泉が羨望の的となるレッツェルという海辺の町がございます。ここにはかつて強大なイスラムの王がおりました。彼は町の人とも外来の人とも親しく付き合い、すぐにその名は広まりました。そのため彼の町には、キリスト教徒やサラセン人の豊かな商人たちがつねに行き来していました。王が亡くなり、息子が跡を継ぎました。息子は父親の人徳にはるか及ばず、性悪な性格でだれに対しても面倒で困った態度をとっていたので、家臣たちからも外国から来た人からも嫌われておりました。
このために商人たちの大部分は町を離れてしまい、残った商人はわずかでしたが、そのなかに二人の老人がいました。大変仲の良い友人同士で信義に厚く、たくさんの財産をもっていましたが、キリスト教徒として神の戒律を守っていました。あとは子供が生まれれば平和で幸せな生活を送れたでしょう。二人はある日そのことを嘆き、長話をした後で、いつか自分たちが子供に恵まれてそれが男女だったら結婚させようと取り決めました。
しばらくしてその願いはかなえられました。ほとんど同じ日に、一方の妻は、フェリステーノと名づけられた男の子を、もう一人の妻は、ジュッラと名づけられた女の子を産んだからです。二人の赤ん坊は本当にかわいらしく、かれらは大喜びしました。教育を受ける時が来るまで子供たちをきちんとしつけながら育て、その後、学問と品行を習得するように、学識ある敬虔な人物に預けました。かれらの期待通りになりました。素晴らしい才能を備えた子供たちは、思慮深い教師が教えたことをすべて習い覚え、まだ幼いにもかかわらず互いを強く愛し合うようになって長く離れてはいられないほどでした。教師が持っていた技に、薔薇などの花束を細工してどんな男女の肖像でも簡単に描くことがありました。子供たちはそれをとても気に入って他の技と同様にその技も身につけ、しばらくすると教師自身も凌ぐほどになりました。
こうして少女が十二歳になり、その年齢にふさわしいしつけを受けたので、父親は娘を教育から引き取って家で母親に世話をさせました。このことにフェリステーノはだれよりも悲しみ、愛している者から引き離されたのを見て、愛情から死にそうでした。そんな状態が一年ほど続きました。毎日ますます彼女への愛情が募り、どうにかしてそれを伝えようと考えました。そこで薔薇などの花束を巧みに組み合わせて彼女の顔をそっくり形作り、召使を通じて彼女に送りました。
ジュッラはだれよりも愛していたフェリステーノからこの貴重で高貴な贈り物を受取って、何度もそれに口付けすると、すぐに自分の庭に走って行ってたくさんの花を摘み、自分とフェリステーノの顔を描いた花束を作って同じ召使を通じて送りました。その花束を見たフェリステーノはとても喜びましたが、彼女に対する愛情が強かったので重い病に罹りました。病の原因は、息子がジュッラに抱いている隠れた愛情だと気がついた父親は、やはり同じ理由で同様の状態になってしまった彼女の父親を訪ねて、こう言いました。
「親愛なる友よ、約束は守らなければならない。今では君の娘は結婚できる年齢になったし、フェリステーノは彼女を妻とする決心をしている。強く愛し合っているかれらを差し迫った死から解放するために、すぐにでも結婚式をするようにお願いしたい」ジュッラの父親もそうするだったので、大きな祝宴を命じて荘厳に結婚式を執り行いました。娘は素晴らしい美貌の持ち主だったので、すぐにその噂が王の耳に入りました。
王はそれまで彼女を見たことはありませんでしたが、彼女の美しさが誉めそやされるのを聞いて、見てみたくなりました。そしてすぐに大臣に命じて、フェリステーノとジュッラの父親たちを自分の下へ呼び出し、その日のうちに、結婚式を挙げた子供たちを必ず自分の前に連れてくるように命じました。善良な父親たちは命令に従って、ふさわしい高価な衣服を着せた若者たちを連れて王宮へ行きました。二人が王の前に現れると、王は新婦の美しさを確かめたどころか噂よりもはるかに美しいように思えて、彼女に惚れこんでしまい、フェリステーノに向かって
「おまえには」と言いました。「この娘をわたしのために放棄して、他の女を見つけるように命令する。わたしが彼女を好きにできるように。もしお前が三日間のうちに従わなければ、すぐにお前の首を体から切り離すと心得よ」この言葉にフェリステーノはひどく困惑して
「陛下」と王に答えました。「そのお申し出は、あまりも奇妙で受け入れ難いと思われます。殺人を犯したことのないわたしに対してすぐに陛下がそのような凶暴な決心を実行されるとしたら、陛下がお命じになるそのような死にわたしは値しないものです。生きている限り、わたしは自分の新婦を陛下であれ他の男であれ、だれにも譲ったりしないとお知り下さい」
この答えに王はひどく侮辱されたと感じて(王は自分の兄を殺していました。兄の息子に自分の娘を結婚させるように、父王は亡くなる前に命じていましたが、王は父の命令に背いて兄殺しという大罪を犯し、甥とその妻となった自分の娘の二人を終身牢に投獄しました)、自分を人殺しだと意識した王は、フェリステーノの答えから自分が死にふさわしいものと思いました。
「だとすると」王は胸のうちでつぶやきました。「この者は、自分ではなく、兄弟を殺したわたしが人殺しとして死刑を宣告されるべきだと言おうとしているに他ならない」王の心は憎しみに溢れて、若者を縛り上げて牢獄へ連れて行き、翌早朝に海へ投げ込んでしまえと大臣に命じました。それから娘の父親に向かい
「おまえは」と言いました「わたしが命令を下すまでその娘を自宅で保護するように。数日後にわが法に従って結婚する予定である」こうして王の話が終わると、この出来事に大変困惑した哀れな父親たちは悲しんで王の前から下がりました。王は一人残されると、ジュッラへの愛情に燃え上がっていたものの、まだ理性のかけらが残っていたので、フェリステーノの返答について学者たちに相談をしようと思いました。そして学者たちを呼び出させ、最初から話を説明して助言をするように命じました。学者たちは王からの要請を受けて、王がフェリステーノに対抗する正当な理屈はないことを悟って、年長の学者がこう答えました。
「陛下、わたしは、このキリスト教徒の若者は釈放されるのがふさわしいと判断します。人殺しではない彼を死刑に処することは不当であるからでございます。われわれの律法のなかでは、キリスト教徒の臣民に不正を行ったイスラム教徒は最後の審判の日に怒りをもって裁かれるとマホメットが約束しております」その言葉に王はひどく恐れを感じはしましたが、自分の凶悪な決心を変えようとはしませんでした。そして再び大臣たちを自分の下に呼んで、翌朝哀れなフィリステーノを海へ投げ込むように命じました。
しかし若者の無実を正しく見ていた神は、王の不正な宣告から彼を救い出し悲しんでいる哀れな父親を慰めようとして、若者を助ける方法を見つけました。フェリステーノの教師にはジャッセメンという名の息子がいました。彼はたくさんの技術を身につけていましたが、なかでも鑿を使って穴を掘る業に秀でていて、わずかな時間で三、四マイルの長さの坑道を掘ることができました。どんなに分厚い壁でも鑿で破って穴を開けて、また元通りにすることができ、どんなに敏い人でも気がつかないほどでした。フェリステーノの身に事件が起きた日の遅く、この若者は長旅から帰ってきて、王が不当で残忍な宣告を下したことを知りました。フィリステーノを大変愛していた彼は、自分の能力を使ってこの不幸から彼を救い出そうと考えました。そしてフィリステーノの父親の部屋へ行き、決心を伝えて励ましました。
夜になるとジャッセメンはフェリステーノが投獄されている場所へ向かい、鑿を手にして牢獄へ続く道を地中に掘り壁を破って、敬虔な祈りを捧げている哀れな若者に会いました。呼びかけて手を握り、長い会話を交わして安心するようにと伝え、ジュッラはまだ気楽な生活を過ごせるだろうと約束しました。そして牢獄から彼を連れ出して、壁を元のように塞いでおいてから、悲しんでいる年老いた父親の下へ連れて行きました。父親は、息子を見てこの上なく喜んで涙を流し、抱きしめました。夜明けが迫り、長い話をしている時間はなかったので、父親はジャッセメンに対して自分たちが受けた恩恵にふさわしい感謝を捧げ、フェリステーノを死から救ってくれたのだからその世話もして、新たな判決が出るまで町のどこかにかくまってくれるようにと強く頼みました。ジャスメンは喜んで承知して、老人からたくさんの金銭を受取って町の城壁近くの家を借り、そこへフェリステーノを連れて行きました。
こうして夜が明けて王の大臣たちが命令を実行すべく牢に向かい、その中へ入ってみると、フェリステーノの姿が見当たりません。壁が壊れていないか調べるためたくさんの明かりが点されましたが、どこも壁はしっかりしていました。この出来事に全員が呆然として、王の相談役たちにすぐに相談に行きました。かれらは驚いてあれこれ解釈しました。ある者は、牢がどこも破れていないのである以上、これは若者が無実であるために奇跡が起きたのだと言いました。それに対して他の者は同意せず、キリスト教徒は罪深いのだと答え、フェリステーノの逃亡は王が原因であるとし、王がその判決においてイスラム法に反したからだと言いました。しかし王の凶暴な性格を知っていたので、大臣たちが金をもらってフェリステーノを逃がしたと王が考えたりしたら、自分たちは残忍な死を命じられるだろうと考えました。そのため、このことは王に知らせないことにして、死刑に値する別の罪人を牢獄から引き出して海に投げ込むように大臣に命令し、王には朝早くフェリステーノを死刑にしたと知らせました。
すぐに大臣はその通りに実行し、王にフェリステーノの死の知らせが届けられると、王は言いようのないくらい大喜びしました。ジュッラの父親に向かって、彼女の夫であるフェリステーノが死んだのであるから、娘を自分のところへ連れてくるようにと命じ、法に従い彼女と結婚するつもりだと伝えました。臆病な老人は王にすぐ娘を渡さなければ、フェリステーノの身に起きたことが自分と娘にも起こるのではないかと恐れて、自分の娘でもなんでも王の意のままに差し出すと伝えました。
そこで哀れな娘は悲しく惨めな立場に追い込まれ、最愛のフェリステーノに残酷な死を与えた者に自分の身を任せなければならないことを知って、激しく泣きながら絶望のあまり自らの命を絶とうと決心しました。小刀を手にして血を流して自殺しようとしたところを、アケルという名前の乳母の娘に止められました。アケルは彼女のそうした行為をひどく叱り、絶望がいかに重大な間違いであるか諭して、自殺すれば魂は永遠に地獄の苦しみの炎のなかに落ちると言いました。さらにいろいろ道理を説いて強い決心を変えさせて慰めながら、暴君の言うことを簡単に信じてはならないと言いました。フェリステーノを殺したと王は町中に知らせていましたが、そのことを信じるべきではないと。アケルの言葉に対して
「親愛なるアケル」とジュッラは涙を流しながら答えました。「わたしが慰めを必要としているのを見て、愛情のあまりにおまえがわたしの死の決心を引きとめようとしていることは分かります。しかしお願いだから教えてください。もし自死せず最愛の夫を亡くした哀れな状態のままであれば、われわれの信仰の敵であり残虐で無慈悲な暴君にわたしの処女を捧げなければならなのが道理にかなったことだと思いますか?」
「いえ」とアケルは言いました。「けっしてそうしたことをお勧めするのではありません。それでは、あなたがた、またキリストの信仰に対して、わたしが味方でないことになってしまいます。キリストの助けによってこの悲劇の解決方法が見つかるだろうと思います。わたしたちの聴罪司祭の良き信仰深い振る舞いはだれかれも認められています。良ければ、すぐに彼にここに来てもらいましょう。あなたの困窮と決意を彼に語れば、きっと神の恩恵によって、役立つ良い知恵をわたしたちに授けてくれることと思います」
その意見を悲しみに沈んでいるジュッラが受け入れたので、すぐに聴罪司祭が呼ばれました。彼にすべてを打ち明けてこの悲劇に助言を与えて欲しいと頼むと、彼は泣いている娘に向かって
「娘よ」と彼女に言いました。「どんなに困った出来事にぶつかっても、けっして絶望してはなりません。それよりキリストに助けを求め、助けの手を差し伸べてくれるように懇願するべきです。なぜなら、キリストは信頼を寄せる者をけっして見捨てないからです。まずあなたたちとわたしは祈りと断食によって、主なる神の怒りを静めるように努めましょう。われわれの罪を許してくださり、この困難な時期に助けてくれるように祈りましょう。あなたジュッラが王の前に連れて行かれたなら、ふさわしい敬意を表して「陛下」と彼に言いなさい。「わたしを陛下の新婦と定めたということは、わたしに大きな完全な愛情を捧げてくださることであると承知しておりますから、なにとぞ、陛下にお願いする最初の頼みごとをお断りなさらないようにお願いします。それはこうでございます。わたしの婚礼を行う前に、四十日間の猶予をください。その間に、陛下の宮殿の部屋で、自分に必要なことを済ませたいと思います」君主はお前を心の底から愛していているし、また主なる神がお許しになるだろうから、彼はお前の願いを拒否しないに違いない。彼からその願いをかなえてもらったら、おまえに与えられた部屋に入って、一日千回、主の祈りを唱え、四十日間断食しなさい。そうしたなら、きっと今の大きな不幸から逃れられるに違いない」
聴罪司祭がこう言い終えると、ジュッラとアケルはとても喜びました。この敬虔な男は、彼女たちに神のご加護を与えて別れを告げ、その場から出て行きました。まもなく華やかな衣装を身にまとった女たちの大行列が王の命令によって娘の父親の屋敷へ向かい、彼女を厳かに王の宮殿へと連れて行こうとしました。女たちをジュッラは喜んで出迎えて、一緒にしばらく過ごしました。それから忠実なアケルと共に、嘆き悲しむ母親と王のご婦人方に付き添われて道中をたどりました。彼女が来るという知らせを受けた王は、すぐに王宮の階段を降りていき、名誉ある騎士たちを引き連れて中庭で彼女を待ちました。ようやく王の前に出た彼女は、聴罪司祭から教わったとおりに四十日間の猶予を王に願い出ました。王は喜んで認めて、宝物管理人を呼んで貴重な宝石をたくさん贈り、願い出た期間は、彼女をアケルと共に、宮の庭園の「ジュリスターノ」と呼ばれている場所にの部屋にかくまっておくよう命じました。その場所から遠くない部屋には、王自身の娘も閉じ込められていました。庭の手入れの上手な老女が場所の管理を任されていて、それ以外の誰一人もそこに立ち入ることができませんでした。
ここでジュッラは悲しみながら、聴罪司祭の助言に従って毎日祈祷をして過ごしていました。ある日、老女からジュッラが来たことを知らされた王の娘が彼女と話としようと思って、父親に強く頼み込んで許しを得ました。女中を通じてそのことをジュッラに伝え、ジュッラは喜んで王の娘を迎えられました。王の娘は彼女と長い時間いろいろ会話を交わし、おしゃべりしている間に、その不幸な身の上をすべて知りました。こうして、自然と彼女に強い同情を覚え、またジュッラがとても信頼を寄せて自分の不幸を打ち明けるのを聞いた王の娘は、自分のほうも伯父が死んで夫が投獄された後、父親によってずっとここに閉じ込められているのだとジュッラに打ち明けました。
こうして二人の娘は互いに打ち解けて、一日の大半をいっしょに過ごすようになりました。ジュッラは聴罪司祭から教わった秘密によって暴君の手から逃れることを期待していて、その娘にも、彼女自身が自由になれるように教えてあげようと考えました。いろいろ話をしていたある日、ジュッラは彼女に言いました。
「善き敬虔な生活を送るわたしの聴罪司祭から聞き覚えた秘密によって、わたしは邪悪な王の手から逃れて以前の状態へと戻れるでしょう。ここにあなたが囚われの身のまま残されるのはわたしにとってとても辛いことですから、他のだれにも明かさないと約束してくれたら、あなたにもその秘密を教えましょう。それを使えばあなたの不幸もきっと報われるでしょう」王の娘はそれにとても感謝をしてけっしてだれにも明かさないと約束し、自分もまた今のみじめな境遇から自由になるためにすぐにでも教えて欲しいと頼みました。そこでジュッラはすぐに教えてやりました。王の娘は、その秘密によって自分と夫を牢獄から救い出せるように思えたので、神に誓いを立て、以前の境遇に戻ることができたならすぐに洗礼を受けると誓いました。そしてジュッラが示してくれた好意に感謝して、自分の住いへ戻ると、断食と主の祈り千回を忠実に始めました。
ジュッラはそうした行いを続けて数日経ちましたが、ある晩、夢の中で哀れなフェリステーノの姿を見ました。彼は自分の不幸を嘆いたあと、彼女が自分のこんな不幸の原因となったのだから、せめて彼女の顔を見ることができるよう薔薇の花束を作って慰めて欲しいと頼みました。しかしそうした夢は長く続くことはできず、フェリステーノの言葉に彼女は強く悲しみを覚えてすぐに目が覚めました。連れ添っていたアケルを傍に呼んで、すべてをすっかり話しました。そのことでジュッラが悲嘆にくれて涙を流すのを見たアケルは、夜明けになるまで話をして慰めようと努めました。そのとき、庭の手入れをする老女が、咲いたばかりの美しい薔薇を一籠、王の名でジュッラへの贈り物としてもってきました。ジュッラは嬉しそうに受取って君主に大いに御礼を伝えるよう頼みました。これを良い徴だと思ってこう言いました。
「お婆さん、持ってきていただいた薔薇の花束は確かにとても綺麗で見事な仕上がりですが、わたしに一籠の薔薇があったなら、持ってきてもらったのよりもずっと綺麗な花束をお見せできるでしょう」自分は花束作りの名人だと思っていた老女は、娘がどれほど上手なのか知りたくなって、すぐに薔薇を摘みに行きました。それをジュッラのところへもって行くと、彼女は自分を慰めるためにも、夢のフェリステーノの頼みに答えるためにも、すぐに鏡の前に腰掛けてそれを覗き込みながら、自分の顔を花束で見事に形作ったので、それはだれが見ても彼女だと分かるほどでした。老女を呼んでその花束を贈りました。「あなたの好きな人に」と彼女に言いました。「贈り物にしてください」老女はそれを見るとすぐに綺麗で細かな仕上げであることを知りました。自分よりもずっと巧みなのではないかと考えて、もし王にジュッラの名でこれを贈ったら、自分が庭の手入れをして得ている報酬を失うのではないか、こんな技術に秀でたこの娘に王が庭の世話を任せてしまうのではないかと恐れました。そこでその花束を王に贈らなかったばかりか、いつか王が娘の能力を知って娘に自分の職が取られるのではないかと思って、町の庭園を廻ってジュッラよりも優れた名人が見つからないか探すことにしました。必要な場合に、自分の名誉と職を守れるために。
しかしジュッラの花束よりも見事な花束を作れる人は見つからず、がっかりした老女がジュリスターノへ戻りかけたとき、ジャッセメンに出会いました。彼は、老女が手にした花束を見たとたんにそれがフェリステーノの妻のものだと分かりました。そのことに大喜びしながら「ああ、お婆さん」と彼女に言いました。「ひょっとしてその花束を売ってはくれないだろうか?」それに対して、「もちろん」と彼女は答えました。「でも十スクーディ以下ではお断りだよ」若者はその返事に大変驚いたふりをして、たった二スクーディでも出せば、さらに見事な花束を見せてやろうと言い返しました。それを聞いた老女はひどく知りたくなって
「もし」と彼に答えました。「これより見事とまではいかなくても同じくらい見事な花束を見せてくれるなら、二スクーディどころか五スクーディ払ったってかまわないよ」ジャッセメンはそう約束すると大喜びで老女の手をとり、フェリステーノのいる屋敷へ連れて行きました。その前に来るとジャッセメンは彼に近づいて、「今日は喜んでください」と耳打ちしました。「よい知らせをもってきましたから」 その言葉を聞いて、若者はすぐに立ち上がり老女の方を見るとその手にはジュッラの花束があり、ジャッセメンと彼が交わした約束を聞きました。「なら、お婆さん」と彼女に言いました。「薔薇を一籠持ってきたら、あなたの花束よりずっと見事なものを見せてあげますよ」ジュッラの技術をこれ以上恐れないためにもそれを一番望んでいた老女は、自分が持っていた花束をそこへ置き、すぐに薔薇を用意しに行きました、
一方フェリステーノは、花束に何百回も口付けし、ジュッラ宛の手紙を書いて、自分が捕まってからその日まで起きたことを逐一彼女に明かし、彼女も自分の状況と居場所を教えてくれるように強く願いました。そうなれば、彼を死から救ったジャッセメンの技術によって彼女の元へ行けるだろうと考えたからです。手紙を筒の中へ隠すと、老女が薔薇を持ってくるのを待ちました。老女が薔薇を持ってフェリステーノのところへ戻ってくると、すぐにかれは筒を手にしてその上に花束を拵えて自分とジュッラの顔を形作り、巧みに薔薇を配置してジュッラの花束よりもはるかに美しく飾りつけました。それを老女に手渡して
「お婆さん」と彼女に言いました、「わたしの友が取り決めた代金は要りません。ただしあなたが十スクーディで売ろうとしたあの花束を作った名人に、お渡しするこの花束を渡して欲しいのです。彼が作るよりもずっと美しい花束を作る人がこの町にはいるのだとその人が知るように」女はフェリステーノにそう約束し、受けた親切に感謝して、嬉しくなって上機嫌で彼のもとを去って、娘のところへ戻りました。「ほら見てごらん、娘さん」と彼女に言いました。「わたしだってあなたのより綺麗な花束を作れるんだよ」それを見て、ジュッラはすぐに夫が作ったのだと分かり、彼は死んでいなかったと知って大変慰められました。「たしかに」と答えました「あなたの花束が、わたしがあげたの花束より美しくないとは言えません。でも、それをわたしのところへ置いていって、薔薇を持ってきてくだされば、明日の朝にはそれよりもっと美しい花束をお見せしましょう」娘がどれほど上手なのかとにかく知りたくなった老女は、花束をそこに残して、遅くなったのでそこから帰っていきました。
そこで一人残ったジュッラは、夫が生きていたことが嬉しくて涙を流し、供のアケルをすぐに呼びました。「いっしょに喜んでください」と彼女に言いました。「神がわたしたちの祈りをかなえてくださいます」 そして、フェリステーノが生きていると確信したわけを語って聞かせて、老女を通じて彼が送ってきた薔薇を見せました。アケルは言いようもなく喜びました。彼女は花束を手にとると筒の上に花束が編み上げられているのに気がつきました。中を覗き込んでみると、フェリステーノが書いた手紙がみつかりました。それをジュッラに見せ、筒から手紙を引き出して読んでみると、フェリステーノの身に起きたこと、かれが考えていることがすっかり分かりました。彼がやって見せたようなやり方でジュッラは自分の今の身の上を伝える機会が巡ってきたので、すぐにそれまでの自分のことを手紙にしたため、自分の居場所を彼に知らせました。フェリステーノがやったように、小さな筒にそれを収めて、次の日を心待ちにしました。
次の日夜が明けるとすぐに、老女が薔薇をもってきました。その薔薇を嬉しそうにジュッラは受取り、手紙を入れた筒を台にして、フェリステーノのよりもはるかに綺麗な花束を編み上げました。それを渡された老女は、その見事な手業にひどく感心しました。そのためまた以前のような心配をして、もしこのようなジュッラの技術が王の知るところになったら自分の報酬が取られてしまうのではと恐れました。彼女は、ジュッラの花束と薔薇を一籠を持ってフェリステーノを訪ねて、これより見事な花束を作ってもらおうと考えました。そして彼の前に来ると、花束と薔薇を渡し、
「ねえ、あなた」と彼に言いました。「ここに持ってきた花束はあなたが作ったのよりいっそう巧みで美しい。花束を作った名人にあなたのほうが上手だと分からせるように、もっと綺麗な花束をお願いしたいので、薔薇を持ってきました」
その言葉にフェリステーノはとても感謝する様子で花束を受取ると、すぐに彼女が作ったのだとわかりました。そして女に向かい、彼が作る花束を引き取りに、その晩遅く戻ってくるように言いました。女は別れを告げてそこを離れ、フェリステーノとジャッセメンを残して立ち去りました。彼女が戸口から一歩出たとたんに、彼はジュッラの手紙を筒から抜き取って、彼女の状況と今の居場所をすっかり知りました。老女が運んできた薔薇を使い、またさらに見事な花束を作り上げて、その晩に老女に渡しました。これ以上見事なものは作れないと思った彼女はそれまで抱えていた心配もなくなり、喜んで自分の家へ帰りました。
フェリステーノは、ジュリアの便りを手に入れてとても大喜びして、彼女から自分がどれほど愛されているかを知りました。どうにかしてでも彼女を救い出したい気持ちになり、友達のジャッセメンに助けてくれるよう重ねて頼み込みました。それに対してジャッセメンはすぐに答えました。
「ご主人さま、若奥様がおられる場所の近くに立派なお屋敷があるのをご存知でございましょう。商人の持ち家でしたが、王にたくさんの負債があって、税のために公の競売にかけられているところです。あなたがその家をお買いになれば、われわれの計画は簡単に成功することでしょう」
その忠告をフェリステーノはとても褒めて、値段にかまわずその屋敷を買うようにと言いました。ジャッセメンはすぐに外国人商人であると装って、君主の相談役のところへ向かいました。遠い国から仲間と一緒にこの国に長く滞在するために来たのだと伝えて、フェリステーノの父親から受取った金を使って屋敷を買いました。豪華な調度類をすべて取り揃えて、すぐにフェリステーノと共に移り住みました。そして鑿の技術を駆使して道の下を掘ってジュッラの部屋の下まで掘り進み、人目に気づかれることなく、主人といっしょにたどり着きました。こうしてフェリステーノは妻と再会しました。彼女は長い断食と祈りで疲れ果て、ベッドに身を投げてしばらく休んでいたところだったので、彼は傍に横になって、優しい涙を流しながら彼女を強く抱きしめました。
娘が目を覚まして夫の姿を見つけましたが、夢見ているのだと思ってなにも言いませんでした。しかし彼が愛情を込めて抱きしめながら言葉をかけたので、自分の夢ではないのだと気がついた彼女は夫の姿を認めました。どのようにジャッセメンとそこへやってきたのかを彼から説明されて、彼女はとても慰められました。甘い会話を交わした後で、この事件に大喜びしているアケルとジャッセメンと共に、坑道を通って買い入れた屋敷へ戻りました。そこでしばらく生活していましたが、フェリステーノはジャッセメンにこう話しかけました。
「親愛なるジャッセメン、いまでは神のおかげで、強く望んでいた彼女をお前の技術によって再びこの手に取り戻すことができ、わたしたちの願いはすっかりかなえられた。怒りっぽく残忍な暴君から逃れるためにジュッラとアケルを連れてこの国を出発して、もっと平和な場所で落ち着いた暮らしを送ったほうがよいのではなかろうか」ジャッセメンは答えました。
「ご主人さま、そのことについてはわたしにお任せください。すでにわたしたちがすべきことをしばらく前から決めておりまして、わたしの判断にきっとご満足されることでしょう」その言葉にフェリステーノは安心して、計画についてはジャッセメンにすべて任せることにしました。
ジャッセメンは王の悪事を厳しく罰するため、翌朝、宮廷へ赴いて謁見を申し入れ、新顔の商人としてあれこれ会話をするなかで、最近収税官から買い入れた屋敷へその翌日王を招待したいと申し出ました。王が承諾すると暇乞いをして退出し、世界で一番の大喜びを味わいながらフェリステーノとジュッラのもとへ戻りました。すぐに彼は翌日するべきことをみんなに伝えました。
王は約束された時間に小姓一人だけを連れて中庭にやってきました。屋敷への階段を上ろうとしたところをジャッセメンから出迎えを受けて、相応しい敬意のこもった挨拶を受けました。フェリステーノとジュッラのいる広間へ入ると、王はすぐに若者たちの姿を見ました。二人は王の方に近づいてジャッセメンが教えたとおりに恭しく挨拶し、手に口付けをしました。王はこの二人に見覚えがあるような気がしてひどく驚き、胸の中でつぶやきました。「この女はたしかにわが妻のようだ。そしてこの男は彼女の前夫で、わたしが海に投げ込ませたあのフェリステーノでないとは思えない。でなければ、きっとわたしは夢見ているに違いない」ジャッセメンはそれに気がつかないふりをして、「陛下」と彼に言いました。「ああ、どうされましたか!なぜそのように考え込んでおられるのですか」 王は自分が眼にしていることを確かめたくなって、答えました。「ちょっと思い出したことがあって、部屋へ戻らねばならぬ。その間おまえたちはここから動かないでくれ。すぐにまたここに戻ってくるから」そう言うと、すぐにその場から出て行きました。
ジュッラがいるかどうか見るために王がジュリスターノへ行こうとしているのだと見抜いたジャッセメンは、ジュッラに以前の衣装を着せ、例の地下道を通って部屋へ連れて行きました。そこにまもなく王がやってきましたが、娘の姿を見て、言いようもないほどひどく驚きました。そして彼女としばらくいた後で、驚きと戸惑いでいっぱいになって、さっき会った若者たちの姿をもう一度見たくなって、ジャッセメンの屋敷へ戻りました。ジュッラも王より先に戻り、前の服に着替え、王から贈られた宝石で着飾り、フェリステーノと共に広間で出迎えました。王は彼らの姿を見ると、自分がジュッラに贈った宝石であることに気がついて前よりもさらに驚き、この若者たちはだれなのかとジャッセメンに尋ねました。「陛下」とジャッセメンは答えました。「これはわたしの連れで私と同じ商人でございます。そして彼の妻でございます」しかし王はその返答にまったく満足できずに、若い娘に向かって、首にかけている宝石を貸してくれないか、すぐにお返しするからと強く頼みました。それを自分がジュリスターノに持っているものと比較したかったのでした(つまり以前に娘に贈ったものと比べるということでした)。ジュッラはすぐ応じる様子を見せて
「陛下」と答えました。「御前で首から宝石をはずすのはとても恥ずかしいですので、部屋に入って首からはずしたら、すぐにお持ちいたします。この宝石だけでなく、わたしたちの財産は何でも心を込めて陛下に差し上げますから、なんなりと御好きなようになさってください」
その言葉を聞いた王は、会話を交わした部屋でついさっき耳にしたジュッラの声をまた聞いたことでひどく動揺し、自分の胸につぶやきました。「彼女の宝石にしても、今わたしが見て喋っているのを聞いている彼女について、彼女の宝石以上の確信が得られるだろうか? とにかくもう一度すぐ彼女がいる場所に戻ったほうがいい。そうすれば一番の確信が得られるだろう」 そこでジャッセメンを傍らへ呼び、また必要があってすぐに部屋へ戻らなくてはならぬと伝え、宝石を外しに部屋へ下がった娘にはもってこなくてよいから、ここで待っていさせて欲しい、自分はすぐに戻ってくると言いました。それ以上は言わずに、狂ったようにジュリスターノへ向かって駆け出しました。すぐにジャッセメンはジュッラに例の地下道に向かわせました。彼女は前の衣装に着替え、王が到着するよりも先に自室に戻りました。王が着いてみると、彼女は先ほど王が別れたときの服を着ていましたが、首に宝石が見当たらなかったので、どうして宝石を身につけていないのかと尋ねました。問いに対して
「陛下」と彼女は答えました。「ありがたく陛下から頂きました宝石は、お願いした四十日の期間が過ぎるまで身につけることは許されませんから、その間この箱に入れてあります」 小さな箱を開けて宝石を見せました。「しかし陛下」と彼女は言い添えました。「おっしゃってください。なぜ今そのようなことをお尋ねになるのですか?」 それに対して、疑いはほとんど解け、さらに彼女を強く愛していたので、王は自分が見たことを逐一語って聞かせ、彼女を見つめれば見つめるほどジャッセメンの屋敷に住んでいる商人の妻にそっくりに見えるのだと誓って言いました。そう言い終わると、何かの徴をつけて確かめようと考え、彼女の手をとって撫ぜる振りをしながら右手を握って肌に青黒い痕をつけました。そして彼女のもとを離れて、すぐにジャッセメンの屋敷へ向かいました。
ジュッラはこの徴におびえ、秘密の道を通って王より早く屋敷へ戻ると、夫とジャッセメンに腕を見せて、王が語った事を怖がりながらすっかり二人に伝えました。しかしいくつもの魔術に秀でていたジャッセメンは、「奥様、大丈夫です」と彼女に言いました。「すぐに青くなった肌を元通りにして差し上げましょう」 そしてすぐに庭へ行き、ある薬草を見つけました。巧妙な王が娘につけた青黒い痕を薬草で触ると、皮膚は綺麗で柔らかになりました。ジュッラはすっかり喜んで、服を着替えて宝石で着飾り、夫とジャッセメンと共に中庭へ王を出迎えに行きました。王は嬉しそうな顔をして挨拶を受けると、娘に向かって
「どうか、お願いだ」と彼女に言いました。「食卓に着く前に、美しき奥様、あなたの夫の許しがあればひとつ頼みを聞いて欲しい。わたしの疑いを解くために、あなたの右腕を見せてもらいたいのだ」
ジュッラがすぐに従い、その腕に青黒い痕などまったくないのを見ると、王はすっかり嬉しくなって、彼女は自分のジュッラではないと思い込んで、受けた親切に大いに礼を述べました。食卓で彼女の向かいに座り、どうやって彼女を攫おうかと考えていました。食事が終わり、霊妙な楽の音をしばらく楽しんだ後で、王は、自分のたくらみがうまく運ぶようにあれこれ喋ってから、最後に生涯でこんなに楽しい日を過ごしたことはないと言いました。王は、彼らの親密さをとても嬉しく受け止めて感謝し、もしよければこんな楽しい友達に再びお目にかかるために戻ってくると伝えました。ジャッセメンはその言葉を聞くと、すぐ王が何を狙ってそう言っているのかを見抜き、さらにかれを馬鹿にしようと考えて、こう答えました。
「陛下、いつでも大歓迎でございます。陛下が御臨席の栄を何度も授けてくださることは、わたしたちにとって大変名誉なことです。なにとぞまたおいでくださるように心からお願い申し上げます」
そうした言葉に王は最大限の謝意を表すと、満足してそこの場を立ち去り、自分の宮殿へ帰りました。翌日陽が昇るや否や、娘を見ようとし若者たちの屋敷のふもとにあった自分の庭に出て、彼女の姿を見つけるとじっと見つめていました。七日間もそうしたことが続き、何度も若者たちの屋敷へ食事に出かけては、どうにかして彼女と二人きりになろうとしました。
ジャッセメンは王を徹底的にからかう計画を立てていたので、フェリステーノと話し合って、次の日王がジュッラに言い寄るように、屋敷のある部屋で彼女と二人きりになるように仕組みました。娘はそれに従い、次の日若者たちの屋敷へ行った王は、部屋で一人にいる彼女に会いました。心の底から愛していると王は強く語って、彼女の愛を贈り物としてくれるよう頼みました。その願いに対して
「陛下」とジュッラは答えました。「陛下の態度に対して、すっかり陛下が好きになってしまいました。お断りすることはできません。しかし、わたしの夫とジャッセメンがここにいますから、あなたのお気持ちもわたしの気持ちもどう満足させたらいいのか分かりません。二三日したらふたりは商売のためにこの町から出立する予定ですから、かれらが旅に出るのを待つことにいたしましょう。そうなれば、わたしの身の安全と陛下の満足を守りながらわたしたちは愉しむことができるでしょう」
この言葉に王は大変喜んで、彼女の手に口付けをすると、大喜びで彼女と別れました。ジュッラは夫とジャッセメンにこの話をすべて聞かせ、娘が王に仕掛けた悪戯にみんな言いようもないほど面白がりました。しかし王が彼女にひどく恋焦がれていること、しかもこれまで王をさんざんからかったことを考えて、暴君が自分たちの身に向けるかもしれない企みを逃れるために彼らはすぐ出発することにしました。
すぐにその晩遅くジャッセメンは海岸へ行き、翌晩に出航予定のキリスト教徒の船を見つけました。船主と契約して、出発に必要な準備を整えました。それから翌朝早く王の御前に参上して、商売の取引のためインドへ向けて旅をすると装って、屋敷の世話のために一人残していく女性のことを重ねて彼にお願いしました。王はこれを聞いて喜び、受けたたくさんの恩義のためにも女性と屋敷を自分のものと同じように保管すると自信をもって約束しました。若者たちは大いに感謝し、暇乞いをして出て行きました。すべて準備してあったので、翌日の晩にジュッラとアケルと共に船に乗って出発しました。風向きがよかったので数時間後には暴君から何マイルも離れたところに来ていました。
王は朝早く起きると、船が出港したことを知って娘を自分のものにできると思い込み、すぐに彼女の屋敷へ向かいました。中庭に入ってみると人声がまったくしないので、階段を上って広間へ入りました。広間も他の部屋もすべてもぬけの殻で、だれも出てくる気配がありません。ジャッセメンが掘った穴を見つけて、落胆した王がその中に入っていくと、自分がジュッラを住まわせた部屋へたどり着きました。若者たちが仕掛けたひどい悪戯に気がついた王は、たちまち苦痛と大きな怒りに襲われ、わずか二日のうちにだれもその原因も分からないまま惨めな死を迎えました。王には幽閉したその娘以外に跡継ぎがいなかったので、相談役たちは王国の後継者について長い議論を尽くした挙句、死んだ暴君の娘を牢から引き出して、暴君が殺した兄の息子である従兄弟と結婚させ、彼を王国の後継者としました。
その決定はすぐに実行され、厳かに結婚式が執り行われました。まもなくし新しい王は妻から、自分が大国の後継者になったのは彼女の祈祷と願掛けのおかげであること、それはジュッラが彼女に教えた忠告によることを知らされ、若者たちがジュッラとアケルを連れて戻ってくるようにすぐ命令を下しました。受けた多大な恩恵に相応しい褒美を与えようと思ったからです。しかし暴君が死んだことを知った若者たちがまだ心配してこの国に戻ってくるのをためらっていると知ると、王は自分の大使を送りました。大使から身の保障を受けた若者たちは、新王の下へ戻ってきました。
ジュッラが最初から成り行きを語ると、王は偉大なる神に最大の感謝を捧げ、妻の願掛けを満足させるために自らその場でキリストの教えに誓いを立てました。相談役たちも自分たちが見た奇跡に感動し、彼に倣いました。またたくまにその町と国の人々は洗礼を受けました。ローマ教会の仕来りに則って新たに結婚式を行い、自分が高い地位に着くことになったおかげであるジャッセメンには、ジュッラの忠実な供アケルと結婚するよう勧めました。厳かで盛大な祝宴が開かれて、遠い国からも大勢が集まりました。それが終わるとフェリステーノとジュッラに多くの財宝を贈りました。王は妻と共にキリスト教徒として暮らし、自分が受けた恩恵をつねに神に感謝していました。